第二十一章

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 ジョンの手の中で、口を開けた小箱から覗く"源の石"は、それを見守る全員が、溜息をつくほど美しい輝きを持った原石だった。
「ジョン、これは?」
ボラーニアの王から頂いてきた"源の石"です。」
「おお、何という…。」
 王は額に手を当て困惑している様だった。シャルルの目が心なしか歪む。笑っているようだが、口は動いていない。その目にジョンはビクッとする。
「ジョン、これは国の安定を守る石でも有る。ボラーニア王は何故、これをお前に託したんだ。言ってみなさい。」
 王は、優しい声だが厳しさを感じる言い方で、ジョンに説明させようとする。ジョンは、ただ、申し訳なさそうに頭を垂れる。
 少し考えていたブライアンが片手を挙げ、口を挟む。
「すみません、よろしいでしょうか?王よ、我が祖国のボラーニア王は、ジョンが指輪を持つ者だからこそ渡したのです。すべてを所持することによって、きっとこの国ーホーセンーを救うヒントが出ると思ったからだと思います。もしこれが軽はずみなことだとしたら、もし間違っていたことならば…、僕達は一からやり直さなければなりません。」
「…ブライアン…。そーだよ!俺達ジョンを守る一心で行動してきたんだ、王様、ジョンばかり責めないでやって下さい!このとーり!」
 と、ロジャーが跪き、地に額をすり寄せる。続いてフレディも膝を地につけ顔を伏せる。そして言い出しっぺのブライアンも跪く。
「もし間違っていたならば…」
 とジョンも父親の前で跪いた。こうなってくると、分が悪いのは王本人である。
「皆立ちなさい、ジョン、良い仲間を持ったな。」
 ホッとしたように皆顔をほころばせた。
「父上…」
 立ち上がろうとしたジョンは、急にめまいがして、そのまま倒れてしまった。


  手の中の"源の石"と、指輪の石と、石碑の石がそれぞれの鼓動を持って、光り輝き出し、ジョンの意識は急速に内面へ傾いて行った。

ー……美しい…ー
一人の美しい女性が小さな子供と、花が咲き乱れる中遊んでい
る。
綺麗な長い栗色の髪は、風に揺れなびいている。
花で作った冠を被り、子供と一緒に花を摘んでいる。
ーああ、これは僕だー
幼いジョンが体験した記憶のはずだが、彼は全くといって、小
さい頃、特に母親に関しての記憶に欠けているのだった。
ーああ、こんなことがあったのか…ー
ー僕は全く覚えてはいないー


 ふと目を覚ますと、ジョンの顔の前にいっぱい顔が並んでいた。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
 ジョンは思いっ切り叫んだ。覗き込んでいた(ジョンが倒れてしまったので仕方なく、近くの大きいテーブルに乗せ、皆で周りを椅子に座って囲んでいたのだが)フレディ、ロジャー、ブライアン、王、シャルル、皆が皆一様の動作をした。
 つまり椅子から転げ落ちた。
 椅子から這い上がりつつロジャーが、
「なんだよー!いきなり叫ぶこたーねーだろーが。」
 ブライアンは、椅子に頬杖付いて、
「びっくりして椅子から落ちちゃったじゃないか。寿命がちじまっちゃうよ!」
 フレディはホッとした顔で、
「何か起きる前は良い顔して寝てたのに。もう、ダーリンったら。驚き過ぎなんだよ〜。」
 シャルルが心配そうに、
「兄上、大丈夫です、ただ皆で心配して覗き込んでいただけですから。」
 半ば呆れたように王が、
「それにしても、ジョン、何があった?」
 最後の父の問いに恥ずかしそうにジョンは答えた。
「すみません。急に目の前にいっぱい顔があったので。夢が夢でしたし。」
「ジョン、そうではなく、さっき意識を失った時のことだ。あそこには邪悪な物を浄化するエネルギーが少しは働いていたはずなのだが、やはり全盛期ほどでは無いようだな。」
 ふと、ジョンは、何故あそこで気を失う必要性があったのか考えた。
(ここには、魔法の力が溢れている。それがこの指輪に反応したのかもしれない)
 シャツの上から指輪を押さえ、溜息を漏らす。
 ふと、ジョンは、指輪の触り心地が変わったのを感じ、指輪をシャツから出してみた。石が増えている。元から有る石の周りにまるで花の花弁のように薄い板状の石が生えていた。そして透明だった石がわずかに色々な色を映し出しているのも伺えた。これは周りの色に反射した光ではなく、石自体が色を放っているようだった。
周りで観ているギャラリーも不思議そうに観ていると、急に近くに有った石碑の石も、ジョンが手から離してしまった源の石も、拾って持っていたロジャーの手の中で音を立てて、形を替えてゆく。
「な…何なんだいったい?」
 ロジャーはびくつきながらも、源の石を箱ごと、ジョンの膝の上に置く。
「いったい何の現象なんだい?フレディ?」
 ブライアンは、困惑と混乱の表情を交互に浮かべ、フレディの顔を見た。彼は固まったままの表情をして、ブライアンの声が全く聞こえて無いかのように、目だけはじっと指輪と、源の石を見つめていた。
 ブライアンは、周りの面々の表情を見ていた。ジョンと、ロジャーは只々驚いているし、フレディと王は同じように、二つの石を観ている。ただ、シャルルだけが、胆汁が喉に込み上げてくるかの様に、口を歪ませ、脂汗を浮かべている。だが、目は、ジョンだけに向けられ、不思議な光をたたえている。
 フレディと王だけがこれから起きることを予知しているかのようだった。
 漆黒の闇の中で、元凶が動きだしていた。

 

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