第四章

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 暫くジョンはうつむいて何やら考え込んでいた。
 心地よい風がふわりと彼等の髪を揺らし、ゆっくりとジョンは身体を縮め、膝を抱えた。
 フレディは、ジョンに紅茶をすすめ、受け取ったのを確認し、見守った。
 吐息を一つゆっくりと吐き出してジョンは、もう一度フレディの目をあの強い眼差しで見詰めた。
 心の中の、いや、見詰めたものの本質である何かを見ようとする様な目で見られ、フレディでなくともたじろぎそうな目。しかし、今は静かに受け止めるほかすべは無かった。
「分かったよ、話す。」
 静かだが、凄みのある声でジョンは言った。
「だけれど、本当に僕のために働きかけるとしたら、嘘や冗談で言っていたならば、今からでも遅くはない、手を引くことだ。僕には君の命までは手に負えないんだ。」
 フレディはジョンの目線から目を離さずに、緊張した面持ちで頷いた。


 …あれは、闇の中突如出現した。
 僕は身構え、短剣を抜いて応戦したよ…。何故か僕は死ななかった。
 でも、僕の剣技は人に自慢するほどまだ上達してはいないんだ。しかし、僕なりに相手の太刀筋を読んで、致命傷は避けたつもりなんだ。
 どれくらい相手に手傷を負わせたから分からなかったけれどー、ある瞬間相手は…あ、一人だったけれど、何処かへ行ってしまったんだ。
 行ってしまった後には辺りは明るくなったよ。月が出て来たからなんだけれどね。
 それから、出血がひどい体で歩いていたら、君の友人に倒れかかってしまったみたいだね。


「それだけなのか?その相手って言うのは顔は君に知られちゃマズイ
奴なんじゃないの?」
「知らない…知りたくない!…僕は全く…知りたくもない事ばかりなんだ。」
 ジョンは今までずっとフレディの目を見ていたのだが、ふっと目を伏せてしまった。
「…でも、何か知っているんだろ?君は何者なんだい…ジョン?」
 話した眼を元にもどし、さっきにもまして強く、いや、睨み付けた。
「嫌ならいいよ、でも僕は君の力になりたいのは本心さ。話てくれないと僕も手の貸ようがない。」
 暫く又考え込む様にうつむき、フレディの目をまっすぐ見た。
 フレディは嘘の無いまっすぐな瞳をジョンに投げ返した。そしてジョンが分かったと見ると、穏やかな笑顔をその顔にたたえた。
「僕は、僕はね、ここからかなり離れたホーセンという国の王子なんだ。けれど、父である王は二人目の妃と息子達に殺されて…はいないだろうけれど、殺されたと同じ状態である事はまず間違いないな。」
 彼の言う事を要約すると、ジョンはホーセン国の第一王子で、彼の母である第一妃は12歳の時に他界した。その後二年皇后はいなかったのだが、国の民の勧めで新しく妃を迎える事にした。その妃は小国だが、軍事力に富んだ国であり、ホーセン国を乗っ取ろうと日夜策を練っていたそうだ。
 つい半年前のこと、妃はついに王を言いくるめ、乗っ取りに成功したかに見えたが、第一王子のジョンが国の秘宝を父から譲り受け、逃げたのだった。
「それがこれだよ。」
 ジョンは首に下げていた指輪を見せた。フレディはそれを近寄って行きつつ、疑問に思った。
「しかしきれいな細工の入ったダイヤだね。でもジョン、なんで指にはめないでわざわざチェーンで首に下げてあるの?」
 ジョンは口を歪ませながらこう言った。
「これを指にはめた人物側がホーセン国の真の、王となるんだよ。だから今の妃もその息子達も、敬愛する父も”王”ではないんだ。」
 しばしの沈黙が部屋に広がった。外では市が開かれているのか、賑やかな人々の声が聞こえていた。

 

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