心の鍵
1、出発の準備
外は小雨が降っている。一件、赤い屋根の家が雨にぬれていた。
室内は薄いグリーンの入った壁に暖色の落ち着いた色した家具が置いてある。
ワインレッドのソファーの上で,小さい犬が眠っている。
そのソファーの横で金髪の男が作業していた。
赤帽セレンは、電話を貰った後、旅の支度を進めていた。しばらく使っていなかったトランクを引っ張り出し、十数日分の着替え、さっき貰って来たばかりのデザイナー料。スケッチブック2冊に、筆入れ、免許証、ひげそり、香水等をどんどん入れていく。
そばで寝ていた白くて丸い子犬がぴくぴくと鼻を動かし、起き上がり、俺を連れていけ!とばかりにじゃれ付いた。「うんうん、君は連れていくに決まっているだろう?相棒。じゃあ、スー、自分に必要な物取っておいで、入れてあげるから。」
ちぎれそうになるくらい尻尾を振りつつ丸い子犬スーは、犬用ガムが入っている袋をくわえて持って来た。
「よしよし、これは必要だな。普通のご飯は私のを分けてあげれば良いからなあ。」
セレンが袋を詰め込んでいると、スーがまた何かを持って来た。
「よしよ…オイオイ。君はこれがお気に入りかい?」
スーが持って来たのは雑誌に載っていた目がクリクリして可愛いメス犬の写真ページを、自分用にストックしてあったらしく、またもや尻尾を振って持って来た。
「あのね、これは持っていかないよ?駄目駄目。私のトランクには入れられないったら。」
無理矢理押し込もうとするスーを抱き上げ、叱った。
「君にはそろそろ奥さんが必要か?」
きゅんきゅうんと、鼻を鳴らして、そうだそうだよ、ご主人!あんた分かってる〜と言いたげな顔をしている。
「旅から帰ったらお見合いだな。その話はまた今度で良いかい?」
ちょっと残念そうだが。フン!と鼻を鳴らして、分かったようだ。
「そういえばあの子。服もトランクもないな。小さい頃の洋服とリュックサックくらいならあるかな…」
そう言って、セレンはタンスの奥に入っていた、きれいな模様の入った箱を出してきた。
出した服は、セレンとは違うタイプの人が、子供の頃着そうな服だった。
「両親はロックやパンクが好きであったな。私はショパン以外聴かんのだが…。うむむ。これは蜘蛛の巣に蜘蛛がとまっているプリントか。こっちは黒っぽいアゲハチョウの気味の悪いプリント。こちらはモヒカンのドクロのプリントか。う〜〜〜む。」
セレンは考え込んでしまっている。セレンの両親はロックやパンク,果てはゴシック系までと幅とパンチの利いた曲を聴いていたため、子供時代のセレンは、まあまあ、いや、かなり荒れていた。
どのくらい荒れていたかというと,彼の見事なふんわりとした金髪をつんつんに立て,眉を剃り,ピアスをつけ,爪はいつもマニュキアで黒くしていた。
ほぼ両親が押し進めた趣味が丸出しではあったが…。
荒れていたセレンの心を癒したのはショパンの曲だった。そして芸術,文化面に開花したのだった。
セレンは打開策で「ブレイクスルー…」と何度か呟いた後,小さいリュックに服をつめた。
リュックのポケットには飴とチョコレート、ビスケットなどをつめてあげた。
「これでいいかな。まあ、何が好きかわからないのは確かだ。」
案外適当な親切心でも、優しさのあるセレンさん。これでうまく旅立てるのだろうか…。