第十二章

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 まずこの屋敷は周りが堀で囲まれ、小高い丘に作られている。丘には視界を遮るような森や林などの木々がなく、全てを切り倒したようであった。屋敷の敷地内は高い塀で囲まれ、見物櫓が幾つも建っている。その櫓一つあたり常時三人間隔を開け配置され、非常事態の際には一つ一つの櫓につけてある通数の鐘のために引っ張ったヒモを引けば喧しいほどの鐘が鳴る仕組みだ。
 壁には至る所に武器を投げ落とすための穴があり、梯子などを掛けられないように、塀は外側に反っている。
 敷地には武器庫、食料庫などは十近く用意され、兵糧攻めにも、取られた時にもと配備されている。
 地下には逃げるための通路がはり巡らされ、万が一の時は、非常扉を開け、中に入ったとたんその扉はもう使えなくなる仕組みになっている。
 
 四人が与えられた塔は本館のすぐ後ろにある塔で、そこに入るには梯子を掛けなければならず、もしもの時には、梯子をあげ、地下から逃げればいい。
 その塔に入り、まずしたことは食事だった。食事をしながらこれからどうするのか考えるためだった。
「とりあえず安全なところには来れたわけだね」
 ホッとしたのか、ブライアンはぼんやりと呟いた。
「でもこれからが大変になるんじゃないかなぁ」
 と、ジョン。フレディとロジャーはそれに頷く。ブライアンは溜息をつきジョンを見た。
「さて、ここはこの屋敷の中でも最も攻防に優れたところだ。逃げ道だって幾つもある。ああ、こんなところで近衛の指揮者としての経験が生きるとは…チェッ」
「あ、そう言えば、僕らの仕事の方は二人分代えてもらっておいたから大丈夫だよ。その仕事とは、ホーセン国王子の近衛。上官にトップシークレットとして話しておいたよ…って、あれ?」
「お前、下手に情報もれたらどうするんだ?」
 怒りが抑えられないロジャーはドスの効いた声で言った。
「そうだよ、ジョンが危険な目に遭うの、もう、僕は見たくないんだ!」
 フレディも続く。
「ああ、そのことなら大丈夫。ホーセン国をその二つとなりのミューラン国に代えて、王子って行っても、隠し子のって、置き換えて話しておいたから。」
「こんにゃろー!」
「ビックリしたじゃないかー」
 フレディとロジャーはブライアンに殴り掛かった。ジョンは仲裁に入ろうとしたが、マダムチョップが効いているのか、肩を押さえてしゃがみ込んでしまった。
「あ、ジョン!」
 フレディは走り寄ると、肩を貸し席に戻した。ロジャーは、こんなことしてる場合じゃないと、ブライアンに一括してから、席に戻った。
 気を取り直し、食事が始まる。
「とりあえず、二人の仕事は続行するってことか。」
 憂さ晴らしにフレディはワインを飲んでいる。
「そう言うことさ、ついでに、ここの町からホーセンまでの地図をもらって来たよ。後でみんなで見よう。」
「ブライアンすごい!…本当にすまない…。でも、うれしいよ、こんなに頼りになる人が周りに居て。みんなありがとう!」
 ジョンはペコリと御辞儀をしたついでに、髪がスープに入りそうになって、慌てて顔を起こした。
「ダーリン、危なかったね」
 フフッと笑いつつ顔色をうかがうフレディ。ジョンは頬を染めつつ、せき払いをし、続けた。
「ロジャー、この家には魔法に関する本はある?もしもあれば確かめてみたいことがあるんだ。」
 ロジャーは持っていたパンをちぎり、口に放り込んでしばらく考えていた。
「確か五冊あったような気がするぞ。チビの頃、おやじに読もうとして叱られた本があった。鍵がついていて、おやじがいつも大事そうに持っていた、本のコレクションの中でも一番古く、祖先が残した本だって…」
 話の途中でその話題の人が大事そうに五冊の本をこちらに運んでくるところだった。
「ジャストタイミングですねミスター」
 にっこりとフレディが微笑むと、ロジャーの父親はにこりと笑ってウインクした。

 

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