第十一章

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「さてと、まずは顔合わせさせねーといけねーな、じゃあ、バトラー(執事"Butler")、今皆が居る所に案内してくれよ。」
 ほい来たとばかりに、「かしこまりました、さあ、皆様こちらです。」
 と、仕事を楽しそうに執事さんは四人を引き連れて奥へと歩いていく。
 途中幼い少年の絵が飾ってあった。額縁の下の方に"可愛い坊や"と彫ってある。澄んだ青い目がいたずらっ子の目をし、貴族らしい上等な服を着て剣を構えてみせている。
「これは七歳頃の若様でございます。それはそれは可愛らしく、やんちゃで、この屋敷にある目立つ傷はだいたい若様がー」
「おいこら。そんな昔話をほかのやつにするなよ」
 少し情けない声でロジャーはバトラーの襟首を引っ張った。
「昔からかわんないんだねロジャーは…いて!」
 ブライアンは蹴られた向こう脛をさすりつつしゃがむ。
「おい、行くぞ」
 泣く泣くブライアンはついていく。
 執事は豪華な扉の前でピタッと止まり、扉を指を揃え指し示しながらにこやかに言った。
「この寛ぎの間にて御主人様、奥方様はいらっしゃいます。後は若様が案内して頂けるでしょうから、私はこれで…。」
「え、おい待てバトラー!俺に案内させるなよ!」
「これは奥方様によるご命令でして、私にはとてもとても…。では、ごゆっくり。」
  にこりと笑って、執事さんはどこかに行ってしまいました。
「どうしたの?」
 と、心配げにジョン。ブライアンは笑っている。フレディがジョンの肩を抱き、楽しげに言った。「何年も家を空けると親と顔を合わせるのが恥ずかしいんだってさ、この若様は〜」
「う、うるせいやい!どうでも良いだろう!?よし、入るぞ」
 ノックを二つ。返事が一つ、ロジャーはエイヤッとばかりに大きくて重いドアを開けた。
「あら、ロジャー!見ないうちに髪が痛んでいるわよ〜?お仕事の方は滞っているって言うのに、お父様の名誉ある近衛の仕事をもっとやってもらわないとねえ。」
 ガンガン喋り出したロジャーの母親は、久しぶりに帰って来た息子にしか目がいっていない様子。後ろから父親が本を小脇に歩いてくる。

「こら、みっともないよお前、我が息子の後ろで戸惑っているお客が見えないのかね?」
 と、後ろで狼狽えている三人にウインクした。言われて母親は気付き、顔を赤らめ、後ろにいた三人に御辞儀をする。
 ロジャーの横にブライアンが飛び出し、ぺこりと御辞儀してから、挨拶と長い長い話を織り交ぜた(堅実で、ユーモアたっぷりで、且つ常識的な)話をし出した。
 途中であまりにも長い話にイライラし、フレディがブライアンを押しのけて、ゆっくりと優雅な御辞儀をし、「ミスターに、奥方様、ご機嫌うるわしゅうございます。私の名前はフレディ・マーキュリー、どうぞお見知りおきを…。」
 極上の笑顔を"奥方様"にし、ジョンを引っ張って来た。
「おい、フレディ、俺のおふくろ誘ってどうすんだよ!?」
「ンフッ(にやりと笑ってウインクする)ロジャーはまだ青いねー女性はいつまでも若いものさ☆」
 ロジャーはうんざりして椅子にドカッと座る。
 ジョンは、皆に続いて挨拶しようと膝を折って礼(まだホーセンがまともな頃に、国中を回り、父親に報告する時このようにしていたため、このような癖がついているようだ)をしようとした。
 が、しかし、巻いてあった包帯がちらりとロジャーの母親の目に留まると、挨拶どころではなくなってしまった。
「まあ!あなた怪我をしているじゃない!そんな風に礼を込められてはこちらが困りますわ!さあこちらにいらっしゃい」
 と、自分が座っていたいソファーの隣に座らせて、紅茶を勧める。
「あ、あの、そんなにたいした怪我じゃないので…」
 ベシッと肩の傷の辺にマダムチョップが炸裂する。ジョンは何も言えずに体を丸め体を振るわせている。
「ほら、痛いんでしょう?無理に傷を隠そうとしないで。ね?」
 心配しているならもっと優しい看病らしいものはできないのか!?とそこに居た彼女以外が思ったが、恐くて言えない。
「おい、おふくろ、世話好きは良いが、もうちっと優しくしてくれねえか?ジョンが痛さのあまりに痙攣起こしてんだからよう…」
 勇気を出し、ロジャーが口を開く。あらそう?という目でロジャーを振り返り、あら、私またやっちゃったのねと苦笑いした。
「ごめんなさいね、つい昔ロジャーにやったようにたたいちゃった(詳しくは空手チョップ)しちゃったの。あなた、ジョンっていうのね?で、その傷は誰に…?」
「お前、その方は貴族や王族のような気高い血筋の方だろう。そんな風に世話を焼くんじゃない」
「…………………」
 人間あまりに本当のことをズバリと言われてしまうと何も言えなくなるモノである。ジョンは顔を硬直させている。その手をロジャーの母親は両手で握りしめ、ポツリとこう言った。
「ええ、そうですけれども、ジョンは幼い時に母親を亡くしているわ…。」
「どうしてそれを…?」
「俺の両親は、仕事上いろいろな人に会う必要があった。側近の仕事は王を守ること。即ちだ、訪問者の人柄を瞬時に読み取らなければ後々危険因子に成りかねない。だから二人ともそんな能力が備わったわけさ。」
 驚いたままのジョンに、ロジャーは苦笑いをしながら言った。
「で、どうなんだね?君は追われているようだが、全てを話してくれるかい?」
「…はい」
 一通り話すとロジャーの母親は、父親に有無を言わせず匿うことを約束させ、塔を一つ使うように言った。
 それは敷地の中でも一番攻防に向いた場所であった。

 

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