第十四章

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「フフ…」
 フレディとクレアは、互いの目を自然と向き合わせ笑い合っていた。
「マダム、あの服はちょっとジョンには不向きかもしれませんよ。ロジャーなら似合うだろうけれど。」
 と、クスリ、と笑うフレディ。
「でも、怪我人は清潔さを保たなければいけないのよ?」
 と、もっともな口振りなクレア。でも、あきらめたようにため息を肩を落としながらし、もう一度ジョンを見て、扉を閉めた。
「そうね、ジョンよりロジャーの方が似合うかもしれないわ。それに、怪我人に一番、いの一番に必要なのは休養ね。私ったらいつもこうなの。気が付いたらロジャーの友達全員のお母さんのようになっていた時もあったわ。」
 ええとそれから―というように細かく思い出して話し出したので、フレディは待ったをかけ、又自分の世界を築き出しましたよマダム、と優しく嗜めた。
 ふと、クレアはフレディの瞳を覗き込んだ。そして悲しそうな顔をし、今のはなかった事にして下さる?と言った。
 フレディは頷き、クレアに過去をのぞかれたことに対し動悸と吐き気を催していたが、顔には出さないようにした。

何故なら"マダムチョップ"も、
無駄にしつこい介護も
彼には無用だったから。

「フレディ!ここに居たのか!」
 と、息を切らし走って来たのはブライアンだった。幾分か青ざめた顔をしている。
「どうかしたか?ブライアン、落ち着いてー、ハイしんこきゅー、吸ってー吐いてー」
「僕はいたって落ち着いてるよ!」
 プリプリ怒りながら、とりあえずフレディを食堂につれていくことにした。
ー食堂ー
「あ、ブライアン呼んで来たか。ジョンはまだ寝てるんだな?」
「ああ、昨日眠れなかったのさ。あの傷では痛みが増す一方だ」
「眠くなって、緊張が解けてくると痛みが再発するし、夜は昼間より体温も、血液の循環も、血圧だって変わってくる。だから、朝方や、昼になって、ようやく眠れることもあるんだ。確かこんなこと本に載ってたよ、ロジャー」
「とりあえず、何があったか教えてくれないかな?僕はブライアンに引っ張ってこられただけで何も知らないんだよ。」
 ロジャーは、あんぐり口を開け、ブライアンを睨んだ。ブライアンは、だってその暇がなかったんだと首をしきりに横に降るので、隣で腕組んで何も分かりませ〜んとジェスチャーしていたフレディの顔に髪がモロ当たった。フレディは、怒りを抑え、とりあえず説明をロジャーにさせることにした。
「昨日の夜、ジョンに似た若者が殺された。それはここからそう遠くはないところで、遺体が発見された。」
「そんなことなら頻繁に今起こっていることだろう?もっと奥が深いんだね、今回のは。そうだろう?」
「ああ、そのとうりだ。その青年には胴体がそっくりどこかへ姿を消してしまっているんだ。まるで、この連日登場している"魔法"でも使ったかのように、消えてしまっているんだよ。」
「…それは…。」のどの渇きのせいか、唇まであっという間に干上がってしまい、言葉がうまく出ない。フレディは舌で唇を湿らせて、もう一度言い直した。
「それは、もしかしなくても魔法だ。周りには血はそれほど出ていないだろうし、何者かが持ち去ったのなら血の跡がどこかに付いているはずだ。付いてなかったんだろう?」
「ああ、そうだよ、何も手がかりがない。しかも倒れていたところには、あたかも透明になってしまうマントで隠したかのように胴体だけない。もし、胴があったならば、こんな風に倒れているであろうと言うところに頭と両腕、両足が置いてあった。」
 フレディはブライアンの顔を覗き込んだ。ひどく脅え、青ざめた顔をしているのに、こちらが見ているのに気付くとふっと笑った。
 ブライアンは異常すぎるほど平和主義で、血や争いごとには繊細で潔癖だった。頭をさっきより下に垂れ髪に隠れた顔色はうかがえないが、きっと彼のことだ、人目に触れている時は人を心配させまいと必死なのだろう。
 フレディは干上がった唇にもう一度水分を与え、ゆっくり自分にも十分に理解できる早さで話し出した。
「13人の賢者は、それぞれのモノに力を封じ、その体を悪用されないよう、封印しさえもした。だが、その賢者の体を、見つけられなくても、魂は輪廻転生し、誰か、又は何かに外見を替え、世界を陰ながら支えてきた。」
 サッと、目をブライアンとロジャーの顔色をうかがうように動かし、ひと呼吸置いてまた口を動かす。
「魂は、この世のどこかに存在するんだ。それを悪用する手はいくらでもあるだろう?例えば、今回の事件、生け贄を使い、部分部分で元の賢者の姿に戻していく方法がある。そういうことをした人間、いや下等な輩がいるってことだ。」
 それまで黙って、俯いていたブライアンが、いきなり話に割って入ってきた。
「それは、つまり、賢者を人足として、この世を混沌と、恐怖の渦に落とし込もうという頭のオカシイ奴がいるってこと?」
 フレディは、ブライアンがいたって落ち着いているのは本当らしいことを頼もしいと思いながら頷いた。
「だとしたら話は早いじゃねーか!そいつをぶっつぶせば良いんだろう!?」
「まあ、そういうことになるね。」
 三人は、互いの心の内を確かめあるように腕をクロスさせ合った。
 目には、まっすぐな闘争心の炎が燃えている。
「やるぞ!」
 と、ハスキーで響く声が上がる。
「ジョンのために!」
 今度は歌うような美しい声が。
「世界の平和のために!」
 少し頼りないが、優しい声が言う。
 ジョンはまだ眠っていた。
 ジョンは知らない。みんなの心が一つに強く結ばれたことを。
 それからこれからくる戦いの予兆を…。

 

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