第二十三章

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「では、この国の魔法が失われた状態の意味は、ジョンを狙うわけの解らない”黒魔術”を使うものが、魔法を完成させるためにいくつか発したエネルギーに、ホーセン国の魔法エネルギーが吸い取られたと言うんですね?」
ブライアンは落ち着かない様子で言った。フレディと、王は頷き、ブライアンは続けた。
「指輪のせいではないと」
「指輪は黒魔術をするための言わば道具なのだよ」
「黒魔術は、何かの媒体を通さなければ使う事が出来ないんだ。」
ロジャーは窓の外の退廃した町並みを眺めている。
「ロジャー、皆のところそろそろ行こうよ。僕、回復したよ?」
モソモソと着替えをしながらジョンは言う。
「つまりは行きたいんだな。分かった、行こう。」
ドアを開けると、シャルルが壁に寄りかかって待っていた。ロジャーを押しのけるように、ジョンに手を貸そうとする。
「いいよ、僕一人で歩けるから。」
と、ずんずん進んで行ったはいいが
「兄上こっちですよ」
「おい、本当に大丈夫かよ?」
「え?あ?お?あ、ごめん。」
ダブル突っ込みで、引き返して二人の後に続いた。
「廊下の方から足音がするな。息子が回復したようだ」
「ああ、良かった。ジョン、案外早く起きたんだね。」
「ジョン…。」
三者三様つぶやきながら、こちらに来る気配を待っている。
三人が部屋に入ってくると、ジョンは歓迎された。六人がテーブルに着き、話し合いを始める。
「さっき話していた事だけれど、指輪や、源の石、石碑は、ツールでしか無いんだって。石自体を通して、黒魔術を発動させるみたいだよ。」
ブライアンは、さっき狼狽えていた人物とは別人のように、いたって穏やかに言った。フレディが補足する。
「つまり黒魔術は、悪魔に魂を売った後、魔法のエネルギーを通しやすい物を使って、儀式的に行うんだ。今回のケースは、賢者を再構築、つまり人体に魂を定着させるために、奴らはライの血を受け継ぐジョンと背格好の似た青年を媒体にして、本体の重要パーツと一緒に、本体、他パーツの犠牲になった人々の魂をヨリシロにし、既にこの世に居ない人物の魂を呼び出す。ここでポイントなのは、呼び出す人物の血族が、蘇らせる本人の血縁者である事が最も望ましい。あるいは、王族の様な高貴な人物をベースにする事が必要なんだ」
「しかしながら、何故私でなく、ジョンなのだろうか?」
ロジャーがジョンと王を見比べて、腕を組みながら、「若さ…か?」
「それは失礼じゃ無いか?ロジャー。」
ブライアンは仏頂面で答える。
「それだけなの?僕と、父上の違いは?」
「あとは生まれでて来た母親の違いか?」
と、ロジャー。
「それは…、そうだけれど。僕は母上の事をよく覚えてい無いし、父上、そう言えば母上は、どこ出身なのでしょうか」
急に質問されて。王は困り果てたように、はにかんだ笑顔を見せる。
「…?」
ジョンは不思議そうに父親の顔を覗き込む。そんな息子に微笑み、話し出した。
「彼女の出は解らない。ある日森を馬で遠出していた時、私は何故か道に迷ってしまったのだ。今思うと偶然ではなく、運命だったのかもしれないが…。
ー私はいつも遠出に来ていた森で、初めて道に迷いながらも、ただひたすら鬱蒼とした獣道を進んでいた。
暫く行くと、一気に道が開け、美しい野原にたどり着いた。
私は思わず馬を降り、辺りを見回すと、野原の真ん中で、花冠を頭に被り、花と、小動物に囲まれた一人の少女が居た。
私はあまりの美しさに知らず知らずに歩み寄っていった。香りの高い花に頭がクラクラとしながらも、傍に座り込むと、小動物は逃げ出したので、彼女は私に気付き、こちらに微笑みながら、ほほに手を添えようとしたので、思わず私も手を差し出すと、柔らかい栗色の髪が心地よかった。
見つめてくる彼女の目は私を映し出し、私は彼女を連れて帰る事を決めたのだった。
私は名も無く、貴族でもない少女を城へ連れていき、妃として迎えた。
…だから、彼女は普通の人間ではないのかもしれない。」
「父上…?それは本当の事ですか?」
「ああ、証拠は彼女は少しも歳を取らなかったのだ。」
「ええ!?」
「王本当でしょうか!?ジョンの母親、つまりは前王妃様が…」
「父上、兄上の母上は…?いったい?あんなに美しい人が…」
「え?シャルル知っているの?母上を知っているの!?」
「………」
「シャルル何か言って!?」
「ジョン落ち着けよ。こいつが何を知っているか知らないが、お前がしっかりしなけりゃいけないんだぞ」
ロジャーがジョンの肩をつかみ、ハッとするほど真っ青な目で見てきた。
「シャルル、お前は会った時から気にくわなかったが、兄貴を混乱させてんじゃねーよ!王族だろうが何だろうが、俺は場を乱す奴は嫌いなんだ!だいたいなんでお前がこいつの母親の顔を知っていなければ行けないんだ?」
「肖像画を見たのです。ロジャーさん。貴方だって、この場を乱す様な発言は僕も許しませんよ」
と、冷ややかな物いいで、表情の無い顔で言った。
「ロジャー、落ち着け。彼は何を考えているのか解らないが、絵だけではない王妃を知っているようだね。」
「フレディ…」
「そうですよ。僕は御亡くなりになる前の王妃をパーティーで見かけた事が有るんです。ただそれだけですよ。父上も僕の母上と会ったはずです。」
「ああ確かに、我が、ホーセン主催の春に開いたパーティーにお前も来ていたな。」
フレディは硬い表情のまま、よく通る声で言った。
「…しかしながら、王よ、彼には黒魔術の匂いがします!」
皆、凍り付き、一斉にシャルルを振り返る。
「何だと!?」
「はは。そんなわけ無いでしょう?僕は黒魔術など知らない」
しかしながら皆の視線は冷たかった。
そして、フレディが畳み掛けるように言った。
「君がここの住民を死に追いやった、張本人ではないのか!?」
フレディの声がだだっ広く、大理石造りの部屋にこだまして、冷ややかな冷気が地面に落ち、暖かい空気が顔の周りを囲む感覚さえ感じた。

 

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