第十八章

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 かくして、四人は一路ボラーニア城へいくことにした。
 はたして"魔法の源"とは何のことなのだろうか?
 馬車に揺られ、執事ブライトン(ブライアンの変装名)は思った。
「ね〜え?ま〜だ?」
 ミューラン国王子の彼女ローラ(ロジャーだよ〜)はヒラヒラした衣装をさらにひらひらと舞わせ、レースが豪華な扇子を口元にかまえ御淑やか且つ、わがまま女性を演じている。
「ローラ、もうチョットで着くから、焦れないでおくれ。」
 と、ミューラン(本当はホーセンなんだけれど)国王子ジョンはニコニコとしていった。
「いやはやノリノリですな(ニヤ)ローラ殿?ああ、見えてきました。あれが、ボラーニア城です。」
 側近長フレデリック(フレディね)は、馬車のタズナを引きながら、妙ににやにやしながらいう。
「開もーん!」
 フレデリックは大声でいい、城の御兵と話をし、城の中へ。
 城の門を潜ると薄暗い回廊が伸び、木のつたが絡み合って自然に出来た物のようだが、どことなく無気味な雰囲気をかもし出していた。
「なあ、フレディ」
 小声でローラ(ロジャー)がフレデリック(フレディ)に話しかけた。
「何だい?ダーリン」
 フレデリック(フレディ)も小声で答える。
「どうしてこんなにすんなり入れたんだよ?」
「袖に少し通しただけさ。」
「なーるほど」
「ずいぶん手薄なとこだね」
 ジョンも加わる。とたんに馬車が止まり、ジョンは舌を噛みそうになった。
「さあ着きましたよ。気を付けて御降り下さい」
 フレデリックは、ローラ嬢に手を差し伸べ、降ろし、続いてジョンの手を引く。
 ブライトンは勝手におりた。
「こんにちは、さあ、どうぞ。」
 人のよさそうな衛兵が、ロジャーが化けたローラ嬢に手を差し伸べ案内しだした。
(この人ロジャーを完全に女だと思っているのかな?)
 ジョンとブライアンは、目を合わせ、笑った。フレディは、どことなく緊張しているようだった。
 国王謁見の間まで来ると、衛兵は四人を待たせ、中に入っていった。
「さあどうぞ」
 しばらくたってから、衛兵は顔をのぞかせた。
 中に入ると広々とした天井が広がり、赤いカーテンや、深紅のじゅうたん、とにかく、高貴な色、赤を基調とし、金や銀、白などで飾られ、絢爛豪華といった感じである。
 ジョンは少し懐かしそうな顔をした。ホーセンにもこのように華やかな王室が有ったのだろう。
「ようこそ、ミューラン国王子、朕がボラーニア国王ボラーニア5世じゃ。で、今日は何用かのう?」
 ジョンは、戸惑うこともせず、きりっとした顔でいった。
「はい、わが国の隣国、ホーセンをご存じでしょうか。その国では今王が居ないと聞きます。さしあたって、ご相談がございます。我が父、現王は、ホーセンに王が居ないのは魔法のせいだと申しております。従って、他の国の協力を仰ぐべく、魔法に関する物を譲って頂きたいと思っているのですが…。どうでしょう。」
 何も臆することの無い良く響く声でジョンは言った。その声の余韻を聞きながら、ボラーニア王は、考え込んでいる様子だ。
「すまぬ、少し時間をくれぬか?」
 手を叩き、頭は良さそうだが捻くれていそうな官僚と小声で話している。
 その間、四人は少し不安そうにしていた。
「うむ。では、こちらに…。」
 国王は、真顔で四人を奥の方へ誘う。生唾を飲み込みながら四人は付いていった。いざという時のために、頭の中では必要な魔法を念じていた。
 王座の奥を少し行った所に、青と黄のロープがぶら下がっている。この部屋の色とは明らかに違う異色の紐である。
「お嬢さん、こちらへ」
 いわれた通りローラ(ロジャー)が王のところへ行くと、官僚が紐を引いた。途端に床がなくなり三人は重力に引っ張られて落ちてゆく。
「ウワアアアア!!!」
「みんなー!」
 ローラ(ロジャー)はありったけの声をだした。が、何かおかしい。ローラもといロジャーは、眉間にしわを寄せ、勘を働かせた。何故なら叫び声が中途半端なところで途切れたのだった。
「おやおや、お嬢さん、気にすることは有りませんよ、貴方の様なお美しい方は、わが国の支持率アップにもってこいの逸材です。何も取って食う様なことはしませんから、安心して下さい。」
「いいえ、そんなことを気にしているのではありません」
「?では何を?」
「…!」
 ロジャーの目の前にいる官僚と王は後ろには全く気に留めていなかったようだが、しかし、ローラ嬢の姿をした彼の目には確かに枝が映っている。
 枝がゆっくりと伸び、王と官僚に絡み付いた。
「うわああ!」
「ヒイイ!何だ!これはぁ!」
 驚きもがく二人の後ろから、木に乗った三人が迫り上がってきた。丁度、舞台の奈落から上がってくるかの様な感じである。
「やあ、ローラ嬢、心配したかい?」
 あぐらをかいて、氷の刃を持ったフレデリック(フレディ)が言う。
「お姫さまの危険な時に王子様は駆け付けるんだ♪」
 つづいてジョンが剣を持ち現れる。
「そうだな。でも、僕の活躍を忘れないでおくれよ?」
 おどけたようにブライトン(ブライアン)は片手を木につけたまま、跪いている。
「脅かすなよ!俺の寿命返せ!」
 ぷんぷんと怒ったローラ嬢のロジャーは言った。
「あわわわわ、こ、国王が悪いんですよ!私は悪くはありません!私は王の口車に乗せられて…」
 脅えた官僚は早口に言う。が。
「ほう?君は朕を捨てる気かね?者共、こやつを牢へ入れろ!二度と出すんじゃない!」
 おおいに怒った王は、この官僚を牢送りにした。
 ひと段落付き、王は縛られていた箇所をさすりつつ、「君たち、疑って悪かったな。朕は、あの官僚にだまされておったのだな。本当の道はこちらじゃ、付いて参れ」と、先導するように王は歩いてゆく。
「ところで、君たちは何故そんな格好してまで来てくれたのじゃ?」
 四人とも参った様な顔をし、それぞれが、それぞれの姿を見た。しかたないと、ジョンは口を開く。
「私がホーセン国の王子だからです。」
「ほう。やはりな。君にはやはり、あれを授けんといかんわけか。」
 と、今度はカーテンを引っ張った。すると、カーテンが巻き上げられ、壁をくり抜いた所に、小さな犬の置物が台座に座っている。それを王はそっと持ち上げ、持っていた猫の置物と替える。するとどうだろう、猫の目が光り輝き、年代物の小物入れがコロッと落ちてきたではないか。
「さあ、これを持っていきなさい。何かの役に立つだろう。これはわが国の王家に伝わる"源の石"だ。使い用によってはこの世界を滅ぼすが、きっと君たちなる上手くやるだろう。こんな老い耄れでも少しは役にたったかな?」
「いいえとんでもない。貴方は大いに役に立つ国王です。ありがとうございます」
 王から"源の石"を譲り受け、四人はホーセンに行くことにした。
 これから起きることを見計らって、ワインを皆で飲み、もう一度決意を固め、馬車を走らせた。
 外に出ると夕日が美しく、遠ざかる町はキラキラときらめき、ロジャーとブライアンの故郷は豪勢な宝石がいっぱい入った宝箱のように見えた。
 その景色を眺めつつ四人は又この国に帰って来れるよう、神に祈った。
 空は間もなく星で覆われようとしていた。

 

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