第二章
「やぁ、フレディ! 久しぶりじゃないか!」
「君達も変わりないようだね」
ニコリと微笑みながら、話の輪に加わる。
「で、その赤毛の子って美人かい?出無けりゃ寝上手なのかい?」
「フ、フレディ、いきなりそんなこと言うなんて…。大体ロジャーもそうだけれどさ、真っ昼間の話しじゃないね。」
「ブライアン、君はねぇ、お固すぎるんだよ!」
「そ、そんな…」
「一理あるけれどよう、フレディ、お前はいったいいつから付けて盗み聞きしていたんだよ!?」
うーん、と考える素振りをしてから、首を横に振って解らないとは言ったが、本当のところずっと付けていたようで、目が笑っている。
「さて、フレディがこの街に帰って来たことだし、今日は無礼講で今から飲みに行こうぜ!」
「無礼講はいつものことじゃ…」
ベシっとロジャーはブライアンの背中を叩き、しばし睨み付けてから、コロっと表情を変えて、二人を連れて酒場へ入って行った。
ジョンは一人歩いていた。沈みきった夜の闇の中足音を消し歩いている。
彼の顔色は伺えはしない、あたりには街灯も無く、しかも生憎月も星も顔を出していない。
とても危険な夜の街を、人っ子一人居ない町外れを彼は歩いている。
息がつまりそうな夜だ。
彼はそう思った。
「おい」
背後からの声にジョンはパッと反応し、身構えた。
「誰だい?バックを狙おうとは相当良い趣味だね」
相手の反応をみたかったのだが、返事が返ってこない。だが、闇の中から押し殺した吐息と殺気がゆっくりと、こちらに歩み寄ってくる。これは確かだった。
ジョンはそれに合わせる様にベルトから提げた短剣に手を伸ばした。
明るい店内には煙草とアルコールと快楽があった。
その店内に、派手な一団が豪快に酒をあおっている。金髪蒼眼の美男子ロジャー・派手な服に身を包んだ、エキゾチックな顔立ちのフレディ・典型的アイルランド人の顔をした背高ノッポのブライアン・の三人である。
「ったく!女が全くツレないとはどーゆーこった?おい、ブライアン!テメーがショロショロと長話に花咲かしているから逃げちまうんだよ!」
と、ブライアンをどつく。どつかれたブライアンはぶつぶつ不平を言っているが、いつものことだと自分に言い聞かせている様に頷いている。
フレディは、二人のやり取りを見つつ、昼に合ったジョンという名の青年を思い出していた。
日光の下だというのに、青白い顔をし、ぎこちなく笑った彼は現実のモノかどうかと考えた。
何故今にも消えてなくなりそうな青年(ジョン)が頭に過るのか、自分でも不思議で仕方なかった。
「…レディ おい!フレディ!?きーてんのかよぉ!」
酒によってベロンベロンのロジャーは、例の赤毛の女の子の尻がどうの、胸がどうのうだうだ言っている。
「う、うん、ちょっと考え事があってね…」
と、又目の光が異様にくすみ、意識の中へと目を向けてしまった。
「ちえっなんだよ!てめーら二人とも付き合いわりーなあ!あ、そこのおねーちゃん!もう一瓶頼むわ!」
「ロジャー、いい加減にした方が良いよ、身体悪くして困るのは君なんだからね。考えて飲んでくれなきゃ。」
「おうおうおう、お前さん胃の悪さは親からのじゃないのかよ〜!」
今度は煙草に火をつけ、煙をブライアンの顔に浴びせた。ブライアンは咽せつつ、やれやれといった顔をしてロジャーと我此処にあらずのフレディを引きずって外に出た。
と、外は先ほどと違い、雲が流れてナイトブルーの夜空に降ってきそうな星が輝いていた。
ようやく二人を引きずって一息ついたところだったブライアンの背中に、何か生暖かく濡れたものがのし掛かってきた。
「うわー!うわー!!うわああああ!!!」
酔ってはいるが、ムクリと身を起こしたロジャーは、じっとそちらの方を見てみた。
「あーん?何だよブライ…!うわー!」
耳元でロジャーの甲高いハスキーボイスが爆発したので、我に返ったフレディは、うろたえながら見てみた。
「え!?なんだい?…ジョン!!!」
血だらけの青年ジョンは息も絶え絶えでブライアンに寄りかかっていた。